量化子 Quantifier


|| 量を扱うための形式的な表現

要は「量を表す時の表現」の話です。

概要は『述語論理』の記事に書いてます。

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目次

 

量化子と数学の関係「なんで真偽が判定できるのか」

 

 

全称量化子「条件を満たすもの全てを表す」

存在量化子「条件を満たすものが存在することを表す」

 

 

・量化子についていろいろ

 

 

 


 


真偽と量化子

 

そもそもの話、量化子(全て・存在するなど)は、

どうして数学で扱えるんでしょう。

疑問じゃありませんか?

 

 

「全て」も「ほとんど」も「存在する」も、

あくまで『人間の作った言語』です。

 

 

初めから『数学的に扱える』と

『分かった上でデザインされたもの』ではありません。

 

 

 

なのに、数学的に扱える。

どうしてなんでしょう? 不思議ですよね。

 

 

 

 

 

命題記号との関連

 

「真偽が確定する」とは何か。

「数学的に扱える」とは何か。

 

 

これを考えるために、

まずは『意味』についての話をしてみます。

 

 

とりあえず、以下のような文を見てみてください。

 

 

1 は自然数だよ」

2 は自然数だよ 」

k は自然数だよ 」

 

 

これの「意味」は分かりますか?

これが「正しいかどうか」分かりますか?

 

 

まあたぶん意味は分かるし

正しいかどうかも分かると思うんですが、

 

 

実はこの「感覚」ってのが大事で、

数学では、まずこれを『モデル』として確定させます。

 

\begin{array}{lllll} \displaystyle M[\phi]&=&\mathrm{True \,\, or \,\, False} \end{array}

 

そうすることで『真偽の判別を可能』とし、

妥当な推論で定理を組み上げる

 

 

これがいわゆる『証明』なんですけど、

見ての通り、元は「言語」です。

 

 

「正しいと分かる」という『感覚』から

厳密に定義するための『モデル』を構築し、

 

 

「結果的に」正しさの判定は可能になる感じで、

根本的に、この辺りは人間の感覚に由来します。

 

 

 

 

 

命題と量化子

 

繰り返しになりますが、

もう一度↓の文を見てみてください。

 

 

1 は自然数だよ」

2 は自然数だよ 」

k は自然数だよ 」

 

 

実はこれが、

「量化子」と「命題」の関係

これを端的に表してるんですけど、

 

\begin{array}{llllllllll} \displaystyle A(k) &:=&k \,は自然数である \end{array}

 

\begin{array}{lllllll} \displaystyle A(1) & A(2) & A(3) &\cdots & A(n) & \cdots \end{array}

 

\begin{array}{lllllll} \displaystyle n&=&1,2,3,4,5,6,...,k,... \end{array}

 

\begin{array}{llllllll} \displaystyle 全ての \, n \, は自然数である \end{array}

 

どうでしょうか。

なんとなく分かりませんか?

 

\begin{array}{lllllll} \displaystyle A(1) & A(2) & A(3) &\cdots & A(n) & \cdots \end{array}

 

というのもこれ、

見て分かる通りなんか非効率です。

 

 

間にある「…」みたいな書き方に

ちょっと誤魔化されてる感じもしますし。

 

\begin{array}{lllllllll} \displaystyle 全ての \, n \, は自然数である \end{array}

 

まあだから、こうやってまとめてしまう。

この感覚はよく分かると思うんですがいかがでしょう。

 

 

 


 


全称量化子 All,Any

 

|| 全ての~は条件~を満たす、の形式的な表現

\mathrm{All,Any} 」の頭文字をひっくり返した記号 \forall で表現されます。

 

\begin{array}{llllllllllll} \displaystyle \mathrm{For \,\, any} &x&,P(x) &&:=&& \forall x &P(x) \\ \\ P(x)&\mathrm{for \,\, any} &x &&:=&& \forall x &P(x) \\ \\ \\ \mathrm{For \,\, all} &x&,P(x) &&:=&& \forall x &P(x) \\ \\ P(x)&\mathrm{for \,\, all} &x &&:=&& \forall x &P(x) \end{array}

 

\begin{array}{llllll} \displaystyle \displaystyle∀x &P(x) &&:=&&P(a_1)∧P(a_2)∧ \cdots & \mathrm{is} &\mathrm{True} \\ \\ & &&=&& \displaystyle\bigwedge_{x∈X}P(x) &\mathrm{is} &\mathrm{True} \end{array}

 

とりあえずざっくりと。

大事な部分はこの辺りなんですが、

 

\begin{array}{llllll} \displaystyle \forall x &P(x) &&:=&& \displaystyle\bigwedge_{x∈X}P(x) &\mathrm{is} &\mathrm{True} \end{array}

 

この辺りとかよくわかんないと思うので、

これから一個ずつ解説していきます。

 

 

 

 

 

意訳

 

全称量化の定義は「 \begin{array}{llllllll} \mathrm{For \,\, all} &x&,P(x) \end{array}

これの直訳は『全ての x について、 xP である』

 

 

こうなんですが、

なんか、よく分かんなくないですか?

 

 

まあ分かるならいいんですけど、

念のため、砕けた言い回しを幾つか紹介しておきます。

 

 

「全ての x は」「 P(x) という条件を満たす」

x は全て」「条件 P(x) を満たす」

 

 

「条件 P(x) を満たす。」「全ての x は」

「条件 P(x) は満たされる。」「全ての x で」

 

 

 

 

 

命題記号との関連

 

「全称量化」は↓を意味する

 

\begin{array}{llllll} \displaystyle \forall x &P(x) &&:=&& \displaystyle\bigwedge_{x∈X}P(x) &\mathrm{is} &\mathrm{True} \end{array}

 

これについてはちょっと考えると分かると思います。

 

 

というのも、

全ての x が条件 P(x) を満たす

ということは \begin{array}{llllll} \displaystyle x&=&a_1,a_2,a_3 \end{array} なら、

 

\begin{array}{lllllllllll} \displaystyle P(a_1)&∧& P(a_2)&∧& P(a_3)&&\mathrm{is}&&\mathrm{True} \end{array}

 

P(a_1) が正しい」『それでいて』

P(a_2) が正しい」『し』

P(a_3) 『も』正しい」

 

 

ということなわけですから、

つまりは「 \mathrm{and} の集まり」なわけじゃないですか。

 

 

その中でも

全称量化は『全部条件を満たす』って言ってるわけで、

 

\begin{array}{llllll} \displaystyle \forall x &P(x) &&:=&& \displaystyle\bigwedge_{x∈X}P(x) &\mathrm{is} &\mathrm{True} \end{array}

 

まあだからこうなる。

これはわりと直感的に分かると思います。

P(x) のどれか1つでも偽だと偽ですし。

 

 


 

 

存在量化子 Exist

 

|| 条件を満たすような~は存在する、の形式的な表現

\mathrm{Exist} 」の頭文字をひっくり返した記号 \exists で表現されます。

 

\begin{array}{llllll} \displaystyle \mathrm{There \,\,exists} &x& \mathrm{such \,\, that} &P(x) &&:=&&\exists x &P(x) \end{array}

 

\begin{array}{llllll} \displaystyle \exists x & P(x) &&:=&& P(a_1)∨P(a_2)∨\cdots & \mathrm{is} &\mathrm{True} \\ \\ & &&=&& \displaystyle\bigvee_{x∈X}P(x) & \mathrm{is} &\mathrm{True} \end{array}

 

これはこんな感じで、

ちょうど、全称量化とは対になっています。

 

 

 

 

 

意訳

 

\begin{array}{llllll} \displaystyle \mathrm{There \,\,exists} &x& \mathrm{such \,\, that} &P(x) \end{array}

これの直訳は『 P(x) となるような x が存在する』

 

 

まじでそのままですね。

 

 

「条件 P(x) を満たす x が存在する」

x が存在する。」「条件 P(x) を満たすような」

 

 

他にもまあこういう言い回しがありますが、

これについては特に疑問は無いと思います。

 

 

 

 

 

命題記号との関連

 

これは若干難しいかもしれません。

 

\begin{array}{llllll} \displaystyle \exists x & P(x) &&:=&& \displaystyle\bigvee_{x∈X}P(x) & \mathrm{is} &\mathrm{True} \end{array}

 

というのも、

これは『条件を満たさないもの』も含むので、

なんかちょっとふわっとしているというか。

 

\begin{array}{llllll} \displaystyle P(a_1)&\mathrm{is}&\mathrm{True} \\ \\ P(a_2)&\mathrm{is}&\mathrm{False} \\ \\ P(a_3)&\mathrm{is}&\mathrm{False} \end{array}

 

\begin{array}{lllllll} \displaystyle P(a_1) &∨& P(a_2) &∨& P(a_3) &&\mathrm{is}&&\mathrm{True} \end{array}

 

例えばこういうのも OK なわけで、

たった1つでも P(x) が真になる x があれば、

この主張・宣言は真になります。

 

 

 

で、肝心の「存在量化」なんですが、

『条件を満たすものが』「存在する」ということは

 

 

P(a_1) が正しい」『か』

P(a_2) が正しい」『もしくは』

P(a_3) が正しい」

 

 

ってことなわけですから、

全称量化同様、これは「 \mathrm{or} の集まり」で表現できます。

 

 

 


 


要点

 

この「量化」についてですが、

以下のことは確実に押さえましょう。

 

 

全称では「全てが正しい」ということを主張しています。

存在では「それが在る」ことを主張しています。

 

 

 

これらは「断定」ですので

『こうだ!』と言っていて、

 

 

それ故に、

「量化」されたものは「真」でなくちゃいけません。

「全部正しい(確定)」「存在する(確定)」なので

 

 

 

 

 

集合と量化子

 

「量化された論理式」は、

『条件に合うもの』を抜き出せるので、

 

\begin{array}{lllllll} \displaystyle S&=&\{ x \in X \mid \forall x \, P(x) \} \\ \\ S&=&\{ x \in X \mid \exists x \, P(x) \} \end{array}

 

「全称量化」も「存在量化」も

「条件を満たすものの集合」を構築できます。(集合論

 

 

この中でも「全称量化」に関しては

「全て」を指しているわけですから、

 

\begin{array}{llllllll} \displaystyle \forall x\in X \, P(x) \end{array}

 

\begin{array}{lllllll} \displaystyle S&=&\{ x \in X \mid P(x) \} \end{array}

 

集合の感覚に非常に近く、

実際、この2者はこの点で深い関わりを持っています。

 

 

 

 

 

「全称」と「存在」の比較

 

この2つの「視覚的」な話をします。

というのも、これを集合を使って視覚化する場合

記号だけじゃちょっとイメージし辛いので。

 

\begin{array}{llllllllllllll} \displaystyle x\in X \\ \\ &\forall x &P(x) \\ \\ &\exists x &P(x) \end{array}

 

全称だと「個体(変数)の集合 X 」の一部を切り取る

存在だと「個体(変数)の集合 X 」の一部を指し示す

 

 

このように自分は認識していて、

実際、「存在量化」では X に手を付けません。

 

 

 

というのも、

「存在量化」は、要は砂を鷲掴みして、

その中にいくつか砂鉄があるよ、みたいなことを言っていて、

 

\begin{array}{rlc} \displaystyle S&=&\{ x \in X \mid \exists x \, P(x) \} \\ \\ &=&X \end{array}

 

まあつまり、

これはそのまま X である

としても、特に不都合は無いんですよ。

 

 

全称量化のように

「条件に合うものだけを抜き出す」わけではないので、

 

 

『全体 X の中に条件に合うものがある』なら、

「条件に合う x が含まれている」のあれば、

どのような集合であろうと条件は満たします。

 

\begin{array}{lllllll} \displaystyle A&=&\{ x \in X \mid \forall x \, P(x) \} \\ \\ B&=&\{ x \in X \mid \exists x \, P(x) \} \end{array}

 

\begin{array}{llllllll} \displaystyle A_{\mathrm{part}}&⊂&A \\ \\ A_{\mathrm{part}} &⊂&B &⊂&X \end{array}

 

つまりこの2者はそれぞれ、

「全称量化」であれば『1つの集合』を指していて、

「存在量化」は『条件に合う x を要素に持つ集合』を指している。

 

 

この点で、この2つは明確に異なるんです。

 

 

でまあこんな感じですから、

基本的に、実用性のある方は限定できる「全」の方で、

「存在」はぶっちゃけあんまり使いませんね。