数 Number


|| 知ってるようでほとんど知らない

『順序』や『量』を表す概念のこと。

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「数字」は『数を表した記号』のことです。

なので「数字」と『数』は同じものではありません。

細かいですけどこの辺繊細なんです。注意したげて。





目次


概要

   浸透している数への印象「大きさとか量とか?」


数の本質

   自然数「人間の直観に強く結びついてるもの」

      ペアノの公理「自然数の存在を公理化したもの」


四則演算「有名な演算のこと」

   加法「要するに足し算のこと( + )」

   減法「まんま引き算のこと( - )」

   乗算「いわゆる掛け算のこと( × )」

   除算「つまりは割り算のこと( ÷ )」


   演算の性質

      交換律「演算を挟んで入れ替えできる」

      結合律「括弧の内と外と入れ替えできる」

      分配律「地味に一言で説明するのが難しい」


自然数から作られる数

   整数「自然数と引き算から生まれた自然な数」

   有理数「整数と掛け算、割り算から生まれた自然な数」


   実数「実数直線なんかの図形的な性質から生まれた自然な数」

   無理数「実数であって、有理数じゃないもの」


   複素数「この辺りまでくると直観から離れてくる」








さて、では『数』というものについて考えてみましょう。

『数』です。『数』ですよ。『数』『数』『数』です。



日常で「数字」を見ない人間はほとんどいないでしょう。

しかしはて、そもそもこいつはいったい何なのでしょう?

よくよく考えてみれば、なんなのかよく分からなくないですか?






皆の知ってる数


日常的な場面に視点を移して考えてみましょう。

ついでに『数』が使われている場面を思い浮かべてみてください。




まず、ほぼ間違いなく、

「時計」で時間を確認する場面はあると思います。




それと他に、皆さんは「買い物」でこれをよく見ると思います。

他にも天気予報なんかでは「降水確率」であったり、

単にものがいくつあるか「数える」ときであったり。




こんな感じに考えていくと、

物事を確認する上で、「数」は日常的に使われています。

特に時間とかで。




しかしはて、それでもいったい『数』ってなんなんでしょう?

↑のものはあくまで「使用例」であって『本質』ではありません。

「そういうもの」であって『なんなのか』は分かりません。



しかし、それでも人は当たり前のように『数』を扱います。

まるで空気でも吸うように、極々当たり前に。






というわけで、今回はそんなよくわからん『数』について、

その本質を語っていこうと思います。




なぜ「判断の基準」として使えるのか。

どうして「それが正しい」と感じるのか。

その本質的な部分について考えてみます。







自然数 Natural Number


|| 原点にして到達点

これは文字通りに『数学の中央』にある概念です。

とりわけ『順序を備えた自然数』は最も重要なものになります。




『数』さえも、これの前では「抽象化したもの」に過ぎません。 

人間の『判断基準の本質』は、最終的にこれになります。




具体的には↓みたいな『数』です。

ただの『決まり』として、ここでは「 0 」を含めます。



0,1,2,3,4,5,...,n-1,n,...






数学は『数え上げ Counting』を基礎として発展してきました。

なぜかと言えば、それが「人間の直観」に一番近かったからです。




そして人間が扱う以上「限りあるもの」でなくてはなりません。

なぜなら『有限』でなければ、人は認識できないからです。




そしてこれが最も重要なのですが、

人間の直観に近い『自然数』は、

厳密には「有限の順序数」であるのなら、



『自然数』は『関係 』で、確実に『比較』できます。



この性質を『比較確実性』と言って、

これのおかげで人は『比較』ができるわけです。



そして『比較』ができるから、人はそれに意味を見出せます。



時間なら「その時間までまだ何分あるから」「まだ大丈夫」と。

金銭なら「あれは何円だから」「あと何円いる」と。

降水確率なら「ほぼ 100\% なら」「まず降るだろう」と。




つまり『数の本質』に近い性質とは、

「比較が確実にできる」ことなわけです。






そんな「自然数」ですが、これは公理化されています。

はい、「公理」です。つまり本質は現状ここになります。






ペアノの公理 Peano Axioms


|| 自然数の存在を許す公理

「自然数」が満たすべき最低限の要件ですね。

形式は帰納的定義に近いです。




大きくわけて「 3 ブロック」になります。

その内訳は「初期値」「後者」「帰納的定義」です。




・初期値について


まずは『 0 の存在』からですね。

なんでもかんでもこれがないと始まらない。






・後者について


次は『任意(なんでも)の自然数 n 』として、

『後者 Suc(n)=n+1 が存在する』と来ます。




これについては、

「初期値っていう例外」と「その他」で分岐。




例外である初期値では

0 は後者ではない』という決まりが。

つまり「 0 」の前にはなにもありませんよと。




後者の性質

『同じじゃないなら違う後者を持つ』と。

これも当然ですね。1100 の後者が同じだとびっくりです。




形式だと↓みたいな感じ。



n≠m\,\,\,\,\,\,\,\,\,\,⇒\,\,\,\,\,\,\,\,\,\,Suc(n)≠Suc(m)






・帰納的定義


これはいわゆる『性質の保証』です。

そのまま帰納的な公理になります。




要約すると「初期値」「任意のもの」「後者」が、

『ある性質を満たす』なら『全体もそれを満たす』という感じ。



乱暴にまとめるなら「全部似たようなもの」ってこと。

これを形式化したものが、定義です。




実際には↓ですね。



・初期値『 0 』がある性質を満たす。

・任意の『 n 』が性質をみたすなら、

『後者 Suc(n) 』もその性質を満たす。


であるなら、

『自然数全体』もまた、その性質を満たす。






ペアノの公理は以上になります。

というわけで、これの具体的な割り当て方を見ていきましょうか。

↑のままじゃ『後者 Suc(n) 』が漠然としているんで。






集合論的定義


これは「ペアノの公理」を満たす『集合』としての定義です。

やり方はいくらでもあります。




有名なやり方だと 2 通りあって、

0:=\{\} 』『 Suc(n):=\{n\} 』とする場合や、

0:=\{\} 』『 Suc(n):=n∪\{n\} 』とする場合も。




ただ『帰属関係 』による「比較確実」という観点から、

『推移関係』があるかどうかが大事になるので、

Suc(n):=n∪\{n\} 』の方がよく採用されます。




なぜなら、例えば『 03 』だと、

\{\}∈\{\{\}\}∈\{\{\{\}\}\}∈\{\{\{\{\}\}\}\} ではあっても、

\{\}∉\{\{\{\{\}\}\}\} となるので『推移律』を満たしません。



\{\{\{\{\}\}\}\} の要素は「 \{\{\{\}\}\} だけ」です。

要素の中身までは含んでません。あくまで一元集合です。






というわけで、初期値を『 0:=\{\} 』として、

Suc(n):=n∪\{n\} 』としてみましょう。

すると「自然数」は↓みたいな『集合』として定義されます。




0:=\{\}=∅

1:=Suc(0)=\{∅\}=\{0\}

2:=Suc(1)=\{∅,\{∅\}\}=\{0,1\}

3:=Suc(2)=\{∅,\{∅\},\{∅,\{∅\}\}\}=\{0,1,2\}

...



『無限公理』から、これらは無限にあることが保証されます。

そしてこれが、自然数の「直感的理解」に一番近くなります。




見て分かる通り「数字」はラベル(名札)です。

その本質は『確実に比較ができる集合』になります。

そして『比較できる』から、「判断の基準に使える」んです。






それと、数学の『基礎』が「集合論」であるにも関わらず、

例えばなぜ「集合学」ではなく『「数」学』なのかというと、

その理由は、この『自然数』が「比較の基準」になるからです。



なにせ『実現したいもの』がこの「自然数」で、

「集合論」は、あくまで『実現のための手段』に過ぎません。



より詳しく言うなら、例えば「自然数」を考えない時、

「集合論」だけではなにがなにやらです。

集合の存在が確定しても、だからなに?って話になります。




より具体的な話をするなら、

例えば「何を作りたいか」が決まっていない状態で、

大量に「材料」だけがあるとします。



さて、この状態に意味はあるのでしょうか?



要約するとこんな感じです。

たとえ「材料」が無数に存在していても、

「実現したいもの」が無ければ、意味は無いという話。




そう、『学問の目的』にあたるものは、この『自然数』なんです。

だから「集合学」ではなく「数学」なんですね。




まとめると、

「集合論」は、あくまで「数」を説明するための道具。

『実現したいもの』は、人の判断基準である「自然数」です。







四則演算 Arithmetic


|| 基本的な演算

基本的な『 4 つの演算』のことです。



これらは「足し算」を基準にして定義されています。

その基準である足し算は「公理」です。




「引き算」の本質は『演算子 - 』になります。

「掛け算」は『複数回の足し算』で、

「割り算」は『逆元での掛け算』という感じ。






加法 Addition


|| 演算の原点

要は「足し算」のことです。

超が付くほど基本的なことではありますが、さてさて。




直観的な理解


基本的には↓みたいな感じに使われるかと思います。



なんかあるものが「何個」かあって、

またそれとは別に「何個」かあって、

じゃあ『全部』で幾つあるか、みたいな。




具体的には、出勤時間までに「何分」掛かるから、

「何時何分」までには出ないとな、みたいな。




こんな感じで皆さん当たり前にやりますけど、

いや、これ実際なにしてるんでしょうね?

なんでこれ、判断基準になるんですか?




はい、というわけで、

この操作の厳密な定義を確認してみましょう。






ペアノの定義


「演算子 + の振る舞い」を念頭に、

『後者』をもとにして「再帰的」に定義されてます。




『後者 Suc(n) 』とすると、

Suc(n)=n+1\,\,\,\,\,(n∈N)



また↑の定義から、当たり前のことが。

n+Suc(m)=Suc(n+m)\,\,\,\,\,(n,m∈N)




以上が定義になります。

でも、なんかよく分かんないって人もいると思うんで、

ちょっと確かめてみましょうか。




まず『 Suc(n-1)=n 』です。

ということは↓



Suc(n)=Suc(n-1)+1=Suc(n-2)+1+1=…

…=Suc(1)+\displaystyle\underbrace{1+1+1+1+…+1}_{n-1}

=Suc(0)+\displaystyle\underbrace{1+1+1+1+…+1}_{n}

=\displaystyle\underbrace{1+1+1+1+…+1}_{n+1}


∴Suc(n)=\displaystyle\underbrace{1+1+1+1+…+1}_{n+1}




ということは、一個減らせば↓だということが導けます。

\displaystyle n=\underbrace{1+1+1+1+…+1}_{n}






であるならば、↑ですから、

n+Suc(m)=n+(m+1) になって、



演算子 + は「結合律」を満たしますから、

n+(m+1)=(n+m)+1\,(∵associative\,law)

∴Suc(n+m)=(n+m)+1=n+Suc(m)






結局、ここでも『自然数』です。

そして最も直観的な「 1+1 」が基になってます。

いわゆる『数え上げ』を人はしてるわけですね。



「一個、一個、一個…」とやって「目標に到達」する。

だからこそ、人はこれを直観的に正しいと感じられるわけです。




結局、当たり前のことをしています。

『形式化』の過程で複雑に見えるだけで、

その本質は『 + の振る舞い』です。



「なにしてるか」を『実現する』ために、

なんか複雑に見える『形式』になっちゃてるだけ。

なので、そんな難しく考えなくて良いです。






減法 Subtraction


|| 引き算

要は↑の「加法」の逆の処理です。



「加法」が『 n+m=x で、 x を求める操作』なら、

「減法」は『 n+x=m で、 x を求める操作』になります。




これを行う『演算子 - 』によって、この「減法」は定義されます。

↑の例にならうなら『 m-n=x 』です。




ここで初めて「 m<n 」のときに、

「負の数」が定義されることになります。




逆に言えば「演算子 + だけの世界」では、

負の数を「定義することができない」という点に注意。



ただし変な話ですが、

その「存在は観測する」ことができます。

↑の「 n+x=m で、 m<n なら、 x は?」みたいな考え方で。

(強制法の本質)






乗法 Multiplication


|| 掛け算

加法をベースにして定義されてます。

これは言ってしまえば『2重に加法を行う』ことです。




要は『 m×n 』だと↓みたいにして定義します。

\displaystyle\underbrace{m+m+m+\cdots+m}_{n}



つまり↓みたいな感じです。わお。

\displaystyle\underbrace{\underbrace{1+1+\cdots+1}_{m}+\underbrace{1+1+\cdots+1}_{m}+\cdots+\underbrace{1+1+\cdots+1}_{m}}_{n}




この作業を省略するためにこれがいるわけですね。

「九九」なんかは、これを瞬時に行えるようにするためにあります。






除法 Division


|| 割り算

これはいわば「乗算の逆の処理」のことですね。



「掛け算」は「 m×n=xx 」を求めますが、

「割り算」は『商』( n×x=mx )を求める演算です。




一般的には、乗法の逆元で「乗法」の演算を行う感じです。

ただしこれは「 m/n=x 」なので、

必ずしも『 x が整数』になるわけではありません。




はい、そんなわけですから、

ここで『 x が整数じゃない』とき、

初めて『有理数』が定義されることになります。






有理数の数としての解釈は、要はこれです。

基本は『自然数』ベースで、これを作るための、

必要になる『自然数じゃない数』として人は見ています。







交換法則 Commutative law


集合 S に『演算 * 』が定義されてて、


a*b=b*a


↑を満たすなら『可換だ』とか『交換律を満たす』だとか言います。






結合法則 Associative Law


集合 S に『演算 * 』が定義されてるとき、


(a*b)*c=a*(b*c)


↑を満たすとき『結合律を満たす』と言います。






分配法則 Distributive Property


集合 S に『和と積の演算 +,× 』があるとき、


(a+b)×c=ac+bc

c×(a+b)=ac+bc


↑を満たすとき『積は和について分配的』だっていう感じ。







整数 Ganze Zahl


|| 0 の向こう側へ

『自然数』に「負の数」を導入した数のことです。



具体的には↓みたいな。



...,-n,-(n-1),...,-2,-1,0,1,2,3,...,n-1,n,...



厳密には『自然数』と『演算子 - 』で定義されてます。

Z=\{n-m\,|\,n,m∈N\}






有理数 Quotient


|| 値に無限が出てくる最初の領域

『整数』にならない「割り算」で出てきた数も含む数のこと。

↑の数を「分数」で表したりします。






分数 fraction


n/d 』で書かれる「 / 」を『括線 Vinculum』と。

n を分子 numerator』と呼んで、

d を分母 denominator』と呼びます。




「有理数」も『自然数』ベースで、

「割り算」とセットで定義されます。

Q=\{n/d\,|\,(n,d∈Z)∧(d≠0)\}







実数 Real Number


|| 人間の直観が働く最大の領域

いわゆる『実数直線』を表すために生み出されたものです。

感覚的に「数」というより『図形的な記号』という感じがします。




集合論的には『デデキント切断』というものを使って、

「自然数」というより「有理数」を使って定義されます。




主に「平方根」とか、いわゆる「高次方程式」の解から、

つまり『無理数』となる解を手にいれるための操作を使えば、

「自然数」からでも「切断面」が得られるわけです。




具体例だとそのまま、

x^2=2 」から切断面が得られます。

こうすることで「有理数っぽく」実数の全てを表現できます。






無理数 Irrational Number


|| 脇役っぽいくせに超大事

『有理数ではない実数』のことです。

つまり「 \mathbb{R}∖\mathbb{Q} 」になります。




無意味なものとは言いません。

寧ろ意味のある数値はたくさんあります。



例えば『 √2 』なんかは無理数ですが意味はあります。

同じく『 \log_e2 』なんかもしっかり意味があります。




超有名で大事なやつだと、

『円周率 π 』なんかは必須と言って良いでしょう。

『ネイピア数 e 』も指数関連では必須です。




こんな感じで、大事な数がここにはたくさん含まれてます。

それこそ数えることができないくらいに。(非可算性)







複素数 Complex Number


|| 直観の外に続く入り口

一言で言えば『実数の拡張』です。

は?って感じですけど、直観的にはどうも説明しにくい。




いわゆる『後者』の性質を表してるものです。

「線」があるなら「面」がある、という感じに。




イメージとしては「方向の拡張」という感じです。

『実数』はあくまで「直線上での移動」だったのに対して、

『複素数』は「平面的に移動」することを許容します。




その一事例として、

通常なら「 2 乗」すれば『正の数』になるところ、

i:=√{-1} 』は『負の数』になります。




この『 i 』は平面上にある単位で、

だからこそ「 2 乗」という一方向の演算から、

『負の数』を作ることができてしまうと考えられます。






なに言ってるんだって話ですが、

普通に考えれば『実数全体』を「 2 乗」すれば、

『正の実数全体』が得られることは当然の結果です。



しかし「複素数」では、そのまま『複素数全体』が得られます。

これは「実数全体」があくまで『一本の直線』であるのに対して、

「複素数」が『直線の無数の束』だから起きるのだと解釈できます。



イメージとしては、

なんとなく『空間を横から平面として見ている』感じと思えば。

実際、「実数」は『平面を横から線として見ている』ので。