|| 様相っていう聞き慣れない単語
これは「必然性」と「可能性」について言及したものです。
数学と哲学の両方に片足ずっぽりな感じのする論理になります。
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あまり基礎的なものではないのですが
面白いので紹介させてください。
形式は述語論理に似ていて
「~は必然的に真である」
「~は可能である」の2つの意味を使います。
まああれです。
量化記号とかと似たようなものだと思ってください。
必然性演算子「~は必然的に真である」
\Box (なんかしっかりしてるイメージで覚える)
可能性演算子「~は可能である」
\lozenge (なんか宙に浮いてる感じのイメージ)
使い方
例えば
「神は存在しない」という主張(必然的に存在しない)とか
「神は存在し得る」という主張(存在する可能性がある)とか
こういう感じの主張ってよくありますよね。
(以下「神は存在しない」を A とする)
\begin{array}{llllll} \displaystyle \Box A \\ \\ \lozenge A \end{array}
それでいて
これらはそれぞれ「真偽を定めることが可能」です。
実際、数値としては
\begin{array}{ccccc} \displaystyle \Box &&&&0\%&&\mathrm{or}&&100\% \\ \\ \lozenge&&&&0\%&<&x&<&100\% \end{array}
これはまあこういう感じになってて
「確率」が対応しています。
加えて
この2つはちょうど「否定」の関係になってて
\begin{array}{lllll} \displaystyle \neg \Box &&\leftrightarrow&& \lozenge \\ \\ \neg \lozenge &&\leftrightarrow&&\Box \end{array}
ちゃんと「論理」してるんです。
はい。
とまあそういう感じで
こいつはわりと数値数値してるんですよ。
否定と真偽
「 必然的に存在しない 」( 0,100 )
「 存在する可能性がある 」( 0,100 ではない)
この2つは互いに「否定」の関係にある
これは見たままただの事実なんですが
\begin{array}{llllll} \mathrm{True}& \Box A&&&& \lozenge \lnot A&\mathrm{True} \\ \\ \mathrm{False}& \lozenge B&&&&\Box \lnot B&\mathrm{False} \end{array}
実はこの主張、互いに両立してしまいます。
どういうことかというと
例えば「神は存在しない」という主張なら
「これまで認識されてない」から存在しない
こういう風に解釈できて(認識論)
「神は存在し得る」という主張なら
「認識が真実とは限らない」から存在し得る
という感じに解釈できる(真理論)
とまあこういう感じに
「正反対な主張」なのは事実なんですけど
実は「どちらも否定できない」ものになっていて
結果として
この2つの主張はどちらも正しいと言えてしまうんです。
なんか面白くないですか?
量化(存在・全)と様相(必然・可能性)
様相論理はまあこんな感じなんですけど
『全称・存在量化』では正反対は確実に両立しません。
\begin{array}{llllll} \mathrm{True}&\displaystyle \Box A&&&& \lozenge \lnot A&\mathrm{True} \\ \\ \mathrm{False}& \lozenge B&&&&\Box \lnot B&\mathrm{False} \\ \\ \\ \mathrm{True}&\displaystyle \forall x\,A&&&& \exists x\, \lnot A&\mathrm{False} \\ \\ \mathrm{True}& \exists x\, B&&&&\forall x\, \lnot B&\mathrm{False} \end{array}
言い換えると
『全称・存在量化』だけは
確実に「真偽」が定まるんです。
一見似通った「様相」では成立しないのに
なぜか『全称・存在量化』だけこのようになります。
なんかすごくないですか?
抽象化された結果とも言えますが
『全称・存在量化だけ』なんですよ?
こういう「様相」のような
数的な論理はいろいろあるのに
『全称・存在量化だけ』は真偽が定まるんです。
不思議ですよね。
実に身近な「必然性・可能性」はダメなのに
「存在・全」でだけはこれが成立するんですから。
義務論理
様相論理の表現方法を変えると
「~べきではない」と「~してもよい」のような
『義務』を表す言語に置き換えることができます。
\begin{array}{cccccc} \displaystyle \mathrm{しなければならない} &&&&0&&\mathrm{or}&&100 \\ \\ \mathrm{してもいい} &&&& 0&<&x&<&100 \end{array}
これも元は「確率・割合」ですから
この感覚はなんとなくわかるでしょう。
そして当然ですが
こういうのは他にもいろいろあります。
例えば「断言・予測」とかもそうですし
より具体的には
「絶対・たぶん」「確実に・たぶん」とか
他にも探せばいろいろ出てきます。
日常的に出てくるものなので
たまに意識してみるとちょっと楽しいかもしれません。
様相論理の公理
以上の話から分かる通り
これは論争の的になっています。
哲学における「認識論」「真理論」など
解釈によって真偽が分かれるので
「基礎」として扱うには不十分。
『全称・存在量化』と違って
これは「命題記号」をうまく扱えません。
しかし
実は全部がそうなわけではなくて
一部、ちゃんと使える記号があるんですよ。
\begin{array}{llllllll} \displaystyle \neg(A \land B) &&=&& \neg A \land \neg B \\ \\ \displaystyle \neg(A \lor B) &&=&& \neg A \lor \neg B \end{array}
この性質は数学の各所でみられる
「ド・モルガンの法則」ってやつなんですが
詳しくは置いておいて
実は、この法則みたいな関係が
「必然・可能性」の 2 つの演算子には存在するんです。
法則の確認
「~は必然的に真である」(絶対にそう!)
「~が偽である可能性はない」(間違いなはずない!)
\begin{array}{llllll} \displaystyle \Box p &&≡&& \neg \lozenge \neg p \end{array}
「~が真である可能性がある」(ほんとかも?)
「~が必然的に偽であることはない」(嘘とは限らないよ)
\begin{array}{llllll} \displaystyle \lozenge p &&≡&& \neg\Box \neg p \end{array}
以上
この2つについては
確実に正しくなると言えます。
不思議なもので
これを間違っていると思えないのが人間
命題の真偽は「解釈に左右される」んですが
それが「確定した後」に関しては
この関係は確実に正しいとするほかにありません。
不思議です。
まあ、だから「公理」なんですけど
使われ方
実はこれ「話に同意したくない」けど
「否定してはいけない時」とか
そういう場面でわりと使われます。
まあ要はあれです。
「こうだよな!」みたいに同意を求められたときとかに
「そうかもね」みたいな返しをする時ってありますよね?
いやそうか? ってほんとは思ってるけど
とりあえず「同意してるように見せる」あれ
\begin{array}{llllll} \displaystyle \lozenge p &&≠&& \Box p \end{array}
「必然を肯定していない」ので
実はこの返しって「同意はしない」ってことなんですが
なんか『同意しているように見える』
それに「否定もしていない」から
実質的には『同意っぽいポーズ』なわけで
ともかく
様相論理はこんな感じに
この時の「本音」を論理的に明らかにできちゃうんです。
\begin{array}{llllll} \displaystyle \Box p && ≠ && \lozenge p \\ \\ \Box \neg p && ≠ && \lozenge \neg p \end{array}
なにより「同意のポーズ」であることを
『論理的に説明できる』という点で
この論理は重要になります。